クレーム解釈の際には明細書を常に参照することが確定しました。
日欧実務の違いを考慮した効率的な手続きをいたします Masaoki Ishiguro Patent Attorney
特許性を評価する際にはクレームを解釈する必要があります。この際、明細書と図面を常に参照すべきか、それともクレームが不明確または曖昧な場合にのみ参照すべきかについては審判部の判例が分かれていました。この件に関し、拡大審判部は、審決G 1/24において、
「発明の特許性を評価する際には、クレームを解釈するために、常に明細書及び図面を参照(consult)しなければならない。これは、当業者がクレームを単独で読んだ際に不明確又は曖昧であると判断する場合に限らない。」
との明確な判断を下しました。
この審決によると、次の例では以下のように判断されることになります。
状況
本願クレーム:集合体シートとXとを有するタバコ部品。
この技術分野での当業者の解釈:「集合体シート」とは「折り目を有する筒状のシート」。
本願明細書の記載:「集合体シート」とは「折りたたんだり巻いたりすることその他の方法により製造されたシート」を意味する。
引例D1:巻くことにより作成した筒状のシートとXとを有するタバコ部品。
判断
通常の当業者の解釈では、「巻くことにより作成した筒状のシート」は「集合体シート」とは解されないので、クレームは新規性有。しかし、本願明細書では、「集合体シート」について、「巻くことにより作成した筒状のシート」を含むような定義がなされている。「集合体シート」は明確であるが、その解釈には明細書の記載を参照しなければならない(G1/24)ので、本願クレームにおける「集合体シート」は、通常の当業者の解釈による「折り目を有する筒状のシート」だけでなく、「巻くことにより作成した筒状のシート」を含むと解釈される。本願クレームはD1に基づいて新規性無し。
したがって、G1/24は、出願人・特許権者だけでなく、異議申立人やFTOを行う人にとっても極めて重大な審決です。「自社製品が範囲内に入っている第三者特許」があったとき、明細書を参照すれば、新規性または進歩性無しとの結論が得られるかもしれません。
注意点としては、明細書の記載がクレーム解釈にどこまで影響するかということです。G1/24は、「クレーム中の用語は、明細書において定義されたとおりに常に解釈される」とまで述べていません。クレーム中の用語の明細書における定義が当業者の常識とは全く異なる場合には、議論が生じると考えられます。
なお、「クレーム解釈の際には明細書を常に参照する」という考え方は、UPCでの考え方とも合致するものです。
欧州特許弁理士・日本弁理士
オランダ特許弁理士・欧州特許弁理士・パートナー
オランダ特許弁理士・欧州特許弁理士
パラリーガル