欧州移行の際には出願人が決定すべき事項が幾つかあります。決定すべき事項および決定にあたり考慮すべき点について説明します。
日欧実務の違いを考慮した効率的な手続きをいたします 石黒正意 欧州特許弁理士・日本弁理士
1.欧州移行時に決定すべき事項
(1) 使用するクレーム・明細書
欧州移行時に、どのクレーム・明細書に基づいてEPOにサーチをしてほしいかを指定する必要があります。特段の事情が無い限り、国際公開されたクレーム・明細書に基づいてサーチを要求することが安全です。欧州移行後に受領するR161(2)/162通知への応答において補正が可能だからです。
欧州移行時のクレームの補正は、後述する特定の場合に有効です。
欧州移行時の明細書の補正は一般的にお勧めしておりません。Page feesがより高額になる場合が多いからです。
(2) 手続き促進措置の有無
(i) 早期処理の請求:法廷移行期限前に移行手続きをしても、EPOは移行期限まで処理を開始することが禁じられています。EPOに移行期限前に処理を開始してほしい場合、移行時にその旨を請求する(早期処理の請求)必要があります。
(ii) R161(2)/162通知を受ける権利の放棄:EPOにサーチをしてほしいクレームが欧州移行時に確定している場合は、この権利放棄手続きが有効です。これによりサーチレポートの受領を6か月以上早めることができます。
(iii) R70(2)/70a(2)通知を受ける権利の放棄:サーチレポートの結果がどうあっても審査段階に進みたいことが確定している場合には、この手続きが有効です。サーチレポートが有効な場合にはこの通知が省略され、すぐさま特許付与の意図の通知を受領することができます。
なお、PPHの使用は一般的にお勧めしておりません。PPHの請求の有無にかかわらず、EPOは独自のサーチを行うからです。代理人手数料に見合う効果が期待できません。
2.欧州移行時の手続きを決定するにあたり考慮すべき点手続き促進を希望する場合、欧州移行時の補正も希望するか否かにより、取るべき措置が異なります。手続き促進を希望しない場合、欧州移行時に補正をすべき理由はありません。補正を希望する場合、R161(2)/162通知への応答において補正が可能だからです。
(1) 欧州移行時に補正を希望しない場合
国際公開されたクレーム・明細書に基づいてサーチを希望する場合、手続き促進したければ、早期処理の請求をして且つR161(2)/162通知を受ける権利を放棄することをお勧めします。これにより、あまりリスクを取らずに手続き促進することができます。
(2) 欧州移行時に補正を希望する場合
希望するクレーム範囲が確定している(対応日本出願と同じ補正をしたい等)場合には、欧州移行時に補正クレームを提出することは可能です。補正クレームを提出し、早期処理の請求をして且つR161(2)/162通知を受ける権利を放棄すれば、希望するクレーム範囲についてのサーチレポートを早期に得ることができます。
しかし、この場合、多くの注意すべき点があるため、EP代理人とコミュニケーションを取ることをお勧めいたします。
まず、欧州移行時に補正クレームを提出する場合には、審査中に行う補正と同様に、補正の根拠を説明する必要があります。この際、EPOにおける補正要件は日米における補正要件とは比較にならないほど厳しいことに気を付ける必要があります。要件違反の補正をした場合、それにより特許付与までの時間がより長くなることもあり得ます。最悪の場合、要件違反に誰も気付かずに補正がなされたことにより異議申し立てで特許が取り消されることもあり得ます。
形式的な補正のみをする場合(クレームの削除等)は、要件違反のリスクが小さいので、上記手続きにより有効な手続き促進が可能です。しかし、それ以外の補正をしたい場合(明細書記載の特徴のクレームへの追加等)には、欧州移行までにEP代理人と共に補正要件について検討する時間がある場合にのみお勧めいたします。その時間が無い場合には、欧州移行時には補正せず、R161(2)/162通知への応答の際に補正することをお勧めいたします。
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