解説:G1/23

再生産できない市販製品でも先行技術になります。

AdobeStock_1026667826
日欧実務の違いを考慮した効率的な手続きをいたします 石黒正意 欧州特許弁理士・日本弁理士

化学製品は、市販品であってもその詳細な組成は非公開であることが多く、正確に把握するに
は成分分析が必要です。また、第三者による完全な再現は技術的に困難な場合が少なくありま
せん。こうした傾向は、化学製品に限らず、複雑な機構の機械製品にも見られます。

このような製品が先行技術を構成するかについては審判部の判断が分かれていました。これ
は、出願時に既に市販されている製品をカバーするような欧州特許を取得できるかもしれない
いう状況を生み出していました。

また、製品の組成が分析不可能でも、製品の他の技術情報は公開されていることがあります。
例えば、市販されたポリマー製品の組成が分析不可能でも、その密度はパンフレットに記載さ
れている、というような場合です。密度が記載されたパンフレットが出願前に公開されていた
場合、その密度が先行技術を構成するかについても判断が分かれていました。

この件に関し、拡大審判部は、審決G 1/23において、
1.    欧州特許出願日より前に市場に投入された製品は、その組成または内部構造が出願日                                                                                                                                             より前に当業者により分析および再生産できなかったという理由のみで、EPC第54条
             (2)の意味における技術水準から除外されることはない。
2.    出願日前に公衆に利用可能となった当該製品に関する技術情報は、当業者が出願日前
             に当該製品およびその組成または内部構造を分析し再生産できたか否かに関わらず、
             欧州特許条約第54条(2)の意味における技術水準の一部を構成する。
との判断を下しました。

つまり、出願日前に市販された製品は、先行技術になります。例えばポリマー製品が市販され
ている場合、出願日前にその組成を当業者が分析および再生産できなくても、そのポリマー製
品は先行技術になります。また、その密度が記載されたパンフレットが出願前に公開されてい
た場合、出願日前にその組成を当業者が分析および再生産できなくても、その密度は先行技術
になります。さらに、市販された製品の特性のうち、当業者が過度の負担無しに分析可能であ
るものは、すべて先行技術になります。

この審決を受けて、これまでは取り消されるか不明であった欧州特許について、明らかな取り
消し理由を有するものがでてくることになります。気になる第三者特許がある場合、市販製品
に基づいて異議申し立てができないか検討することが一層重要になったと言うことができま
す。